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放射線治療技術の進歩により、がん病巣に対して必要な放射線を正確に照射しながら、周囲の正常臓器への影響を抑えることが可能となりました。 その結果、限局性前立腺がんの治療において放射線治療は手術と同等の選択肢となっています。当院の放射線治療センターでは、2008年にIMRT(強度変調放射線治療)が保険適用されて以来、前施設である脳神経・放射線科クリニックにて多くの前立腺がん症例をIMRTで治療してきました。また、近年普及しているIGRT(画像誘導放射線治療)についても、前立腺に留置した金マーカーを用いた照合システムを用いてその黎明期から積極的に取り組んでいます。 2023年11月には、IMRTおよびIGRTに特化した最新の放射線治療装置「Halcyon(ハルシオン)」と体表面モニタリングシステム「IDENTIFY(アイデンティファイ)」を導入し、前立腺がん診療をさらに充実させるため、 坂泌尿器科病院放射線治療センターを開設し、脳神経・放射線科クリニックから移転・統合しました。Halcyonの導入により、IMRTをさらに効率化したVMAT(強度変調回転放射線治療)による治療が可能となりました。これを用いて短時間かつ身体の負担の少ない放射線治療を目指しています。また、転移リスクの高い症例に対しては、前立腺原発巣と骨盤リンパ節への予防照射を同時に行う治療や、前立腺がん根治手術後(あるいは手術後)の局所病変残存やPSA上昇に対する救済(サルベージ)放射線治療などの高度な放射線治療も可能になりました。 これらと新しい薬物療法と組み合わせることで、前立腺がん全体の治療成績向上も期待されます。
5年生化学的非再発(PSA値の再上昇がない)率
低リスク群:約80~90%
中間リスク群:約70~80%
高リスク群:約50~70%
[放射線治療計画ガイドライン2024年版より引用]
(1) 急性期有害事象(治療中〜治療後約1ヶ月の間に生じるもの)
主に照射部位の炎症による症状です。症状の程度は個人差がありますが、放射線治療を受ける方のほぼ全員に生じます。多くは外来通院による対応が可能なものですが、経過によっては入院での対応を必要とすることがあります。 症状悪化に伴う治療中断とならないよう、炎症の原因となるアルコールや刺激の強い飲食物は極力避けてください。 治療が進むにつれて症状は徐々に現れ、強まります。治療の終盤から治療後1週間程までが症状がもっとも強い時期です。その後は自然に炎症が引いていき、徐々に症状も軽くなって治療前と同じ状態に戻っていきますが、回復までの時期には個人差があります。症状が強い場合には内服薬や外用薬で症状を和らげながら放射線治療の完遂を目指します。まれですが症状が非常に強い場合は放射線治療を中断して有害事象の治療を優先することがあります。
(a) 尿道や膀胱の炎症
・ 頻尿、尿意切迫
・ 排尿困難、排尿時痛
(b) 直腸の炎症
・ 頻便、便意切迫
・ 軟便
(c) 皮膚の炎症
・ 皮膚の発赤や色素沈着(とくに臀部や両股関節の外側)
・ 照射部位(陰部、下腹部、臀部)の脱毛
(d) その他 ※とくに骨盤リンパ節領域照射も行う場合
・ 下痢
・ 悪心、食思不振
・ 倦怠感
・ 放射線宿酔(照射後一過性の船酔いのような感覚)
(2) 晩期有害事象(治療後約6ヵ月以降に生じる可能性のあるもの)
主に治療標的に近く、多くの放射線が当たった部位(臓器)に生じる可能性のある症状です。
強い炎症が生じた後にその部位が脆くなったり(脆弱化)、固くなったり(線維化)することで生じます。
急性期有害事象と異なり全員に生じるものではありませんが、放射線治療が終了して半年以降に約5%の確率で生じる可能性があります。放射線治療実施前の手術歴(とくに下部直腸がんや前立腺肥大症の手術)、糖代謝異常(糖尿病)や動脈硬化などの合併症、喫煙や過度の飲酒などの生活習慣などによりこの可能性が上がります。放射線治療計画と毎回の照射に際して、周囲の正常臓器に照射される放射線量を必要最小限に留め、晩期有害事象が生じる確率を下げるように務めていますが、その確率をゼロにすることはできません。
症状が生じた場合には投薬などの治療を行いますが、現状では完治が難しいものが多く、対症療法が中心となります。血尿や血便・下血が多く続く場合には泌尿器科や消化器内科での内視鏡による止血が必要となることがあります。前立腺がんの放射線治療後の経過観察の中でとくに重要な事項です。
(a) 前立腺内の尿道や膀胱で強く照射された部位での炎症後変化
・ 血尿
・ 膀胱にためられる尿量の減少、頻尿、尿意切迫
・ 尿失禁
・ 尿道の狭窄による排尿困難
(b) 直腸、肛門の症状
・ 血便、下血
・ 頻便、便意切迫
・ 残便感、排便困難
(c) 前立腺とその周囲の血管の症状
・ 精液量の減少
・ 勃起障害
(d) その他 ※とくに骨盤リンパ節領域照射も行う場合
・ 小腸の障害(腹痛、下痢、腸閉塞)
・ 骨盤や大腿骨の不全骨折
・ 下肢のリンパ浮腫
・ 二次発がん
※まれですが放射線治療によって膀胱がんや直腸がんなどの二次発がんのリスクが上がる可能性があると言われています。特に若年の方では注意深い経過観察が必要となる場合があります。